にも不満足はない。休ませて貰おう。」
「それでは二階へ行こか?」
「まア、鳥渡待っておくれやす」と、細君は先ず僕等の寝床を敷きにあがった。僕等は暫くしてあがった。
家は古いが、細君の方の親譲りで、二階の飾りなども可なり揃っていた。友人の今の身分から見ると、家賃がいらないだけに、どこか楽に見えるところもあった。夫婦に子供二人の活《くら》しだ。
「あす君は帰るんや。なア、僕は役場の書記でくたばるんや。もう一遍君等と一緒に寄宿舎の飯を喰た時代に返りたい」と、友人は寝巻に着かえながらしみじみ語った。下の座敷から年上の子の泣き声が聞えた。つづいて年下の子が泣き出した。細君は急いで下りて行った。
「あれやさかい厭になってしまう。親子四人の為めに僅かの給料で毎日々々こき使われ、帰って晩酌でも一杯思う時は、半分小児の守りや。養子の身はつらいものや、なア。月末の払いが不足する時などは、借金をするんも胸くそ悪し、いッそ子供を抱いたまま、湖水へでも沈んでしまおか思うことがある。」
こういう話を聴きながら、僕はいつの間にか寝入ってしまったが、酔《よ》いの覚めて行くに従って、目も覚めて来て、再び眠られなくな
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