だが離ればなれになっとるんもあった。何れも、腹を出しとったんはあばらが白骨になっとる。腹を土につけとったんは黒い乾物見た様になっとる。中には倒れないで坐ったまま、白骨になっとったんもある。之を見た収容者は男泣きに泣いたそうや。大石軍曹はて云うたら、僕がやられたところよりも遙かさきの大きな岩の上に剣さきを以て敵陣を指したまま高須聨隊長が倒れとった、その岩よりもそッとさきに進んだところで、敵の第一防禦の塹壕内に死んどったんが、大石軍曹と同じ名の軍曹であったそうや。」
「随分手柄のあった人どす、なア」と、細君は僕の方に頸を動かした。
「そりゃア」と、僕が話しかける間もなく、友人は言葉をついだ。
「思て見ると、僕は独立家屋のそばまで後送して呉れた跡で、また進んで行て例の『沈着にせい、沈着にせい』をつづけとったんやろ。――まア、ざっとこないな話――君の耳も僕の長話の砲声で労れたろから、もう少し飲んで休むことにしよ。まア、飲み給え。」
「酌ぎましたよ」と、すすめる細君の酌を受けながら、僕は大分酔った様子らしかった。
「君と久し振りで会って、愉快に飲んだし、思いもよらない君の戦話を聴いたし、もう、何
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