ひ》をおんみはもつのか
おんみは彼等の罪によつて汚れない
彼等を憐め
その罪によつておんみを苦め
その罪によつておんみを滅ぼす
彼等はそれとも知らないのだ
彼等はおのが手を洗ふことすら知らないのだ
泥濘《どろ》の中にて彼等のためにやさしくひらいた花のおんみ
どんなことでもつぶさに見たおんみ
うつくしいことみにくいこと
おんみはすべてをしりつくした
おんみの仕事はもう何一つ殘つてゐない
晴晴とした心をおもち
自由であれ
寛大であれ
ひとしれずながしながしたなみだによつて
みよ神神《かうがう》しいまで澄んだその瞳
聖母摩利亞のやうな崇高《けだか》さ
おんみは光りかがやいてゐるやうだ
おんみの前では自分の頭はおのづから垂れる
ああ地獄のゆり[#「ゆり」に傍点]よ
おんみの行爲は此の世をきよめた
おんみは人間の重荷をひとりで脊負ひ
人人のかはりをつとめた
それだのに捨てられたのだ
ああ正しい
いたましい地獄の白百合
猫よ
おんみはこれから何處へ行かうとするのか
おんみの道はつきてゐる
おんみの肉體《からだ》は腐りはじめた
大地よ
自分はなんにも言はない
此の接吻《くちつけ》を眞實のためにうけて
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