する
雪は力を堆積する
そして人間を神神と一しよにする
祝福せよ
子ども等はうれしさに獅子のやうだ
ちらちらと落ちてくる雪
雪の殘忍な靈魂《たましひ》
このうつくしさを頬張り貪り
くるへ
雪もをどれ
雪のやうな子ども等
※[#ローマ数字8、1−13−28]
世界の黎明をみる者におくる詩
鷄の聲にめざめた君達だ
からす[#「からす」に傍点]や雀より早くおきいで
そして畑へ飛びだした君達だ
朝露にびつしよりぬれた君達だ
まだ太陽も上らないのに
君達の額ははやくも汗ばんだ
君達はひろびろとした畑の上で
世界の黎明《よあけ》をみた
それをみるのは君達ばかりだ
此の世のはてからのぼつてくるその太陽を
どんなに君達はおどろかしたことか
君達はしるまい
君達はしるまい
此の若き農夫を思へ!
自分は此の黎明を感じてゐる
自分は感じてゐる
此の氷のやうな闇の底にて目もさえざえと
ふゆの黎明を
遠近《をちこち》でよびかはす鷄の聲聲
人間の新しい日をよびいだすその聲を
ぐらす[#「ぐらす」に傍点]のやうに冴えかへる夜氣
枯れ殘つた草の葉つぱの上に痛痛しい雪のやうな大霜
なにもかもはつきりとした世界の目ざめ
此の永遠の黎明を
自分はつよく感じてゐる
それをどんなにのぞんでゐるか
而も夜はながい
おもへ
朝日にかがやく冬の畑を
大地の中で肥えふとる葱や大根を
それから人類のことを
偉大なもの
偉大なものは砲彈ではない
※[#「木+解」、第3水準1−86−22]の木のやうな腕である
それはまた金貨でもない
鋼鐵《はがね》の齒をもつ胃ぶくろである
その上に
此の意志だ
強者の詩
人間の此上もなきかなしみは
此のくるしみの世界に生みいだされたことだと云ふか
否!
これこそ人間のよろこびではないか
此のうつくしさが解らないのか
何といふうつくしさであらう
此のくるしみの世界は
此のくるしみに生くることは
みよ
ひろびろとした此の秋の田畠を
重い穗首をたれた穀物
いさましいその刈り手
その穀束をはこび行く馬
ゆたかな天日の光をあびつつ
其處にも此處にも
落穗をひらふ貧しい農婦等
からす[#「からす」に傍点]や雀も一しよであるのか
此のむつましさを知れ
此のうつくしさはどうだ
此の大きなうつくしさはどうだ
此のうつくしさを知るものは強い
此のくるしみの世界にのみ
人
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