探る。

わたしをまつてゐるのは、誰。

黎明のあしおとが近づく。蒼褪めたともしびがなみだを滴らす。眠れる嵐よ。おお、めぐみが濡らした墓の上はいちめんに紫紺色の罪の靄、神經のきみぢかな花が顫へてゐる。それだのに病める光のない月はくさむらの消えさつた雪の匂ひに何をみつけやうといふのか。嵐よ。わたしの幻想の耳よ。

わたしをめぐる悲しい時計のうれしい針、奇蹟がわたしのやはらかな髮を梳る。誰だ、わたしを呼び還すのは。わたしの腕は、もはや、かなたの空へのびてゐる。青に朱をふくめた夢で言葉を飾るなら、まづ、醉つてる北極星を叩きおとせ。愛と沈默とをびおろん[#「びおろん」に傍点]の絃のごとく貫く光。のぞみ。煙。生《いのち》。そして一切。

蝙蝠と霜と物の種子《たね》とはわたしの自由。わたしの信仰は眞赤なくちびるの上にある。いづれの海の手に落ちるのか、靈魂《たましひ》。汝《そなた》は秋の日の蜻蛉《とんぼ》のやうに慌ててゐる。汝は書籍を舐る蠧魚と小さく甦る。靈魂よ、汝の輪廓に這ひよる脆い華奢《おしやれ》な獸の哲理を知れ。翼ある聲。眞實の放逸。再び汝はほろぶる形象《かたち》に祝福を乞はねばならぬ。


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