まつた
蚊柱
蚊柱よ
蚊柱よ
おまへたちもそこで
その夕闇のなかで
讀經でもしてゐるのか
みんないつしよに
まあ、なんといふ莊嚴な
ある時
また※[#「虫+車」、第3水準1−91−55]《ひぐらし》のなく頃となつた
かな かな
かな かな
どこかに
いい國があるんだ
ある時
松の葉がこぼれてゐる
どこやらに
一すぢの
風の川がある
ある時
くもの巣
松の落葉が
いい氣持さうに
ひつかかつてゐる
あ、びつくりした
晝、日中
ある時
たうもろこしの花が
つまらなさうにさいてゐる
あはははは
だれだ
わらつたりするのは
まつぴるまの
砂つぽ畠だ
ある時
宗教などといふものは
もとよりないのだ
ひよろりと
天をさした一本の紫苑よ
ある時
うつとりと
野糞をたれながら
みるともなしに
ながめる青空の深いこと
なんにもおもはず
粟畑のおくにしやがんでごらん
まつぴるまだが
五日頃の月がでてゐる
ぴぴぴ ぴぴ
ぴぴぴぴ
ぴぴぴぴ
どこかに鶉がゐるな
ある時
こどもたちを
叱りつけてでもゐるのだらう
竹藪の上が
あさつぱらから
明るくなつたり
暗くなつたりしてゐる
ほんとに冬の雀らである
ある時
まづしさを
よろこべ
よろこべ
冬のひなたの寒菊よ
ひとりぼつちの暮鳥よ、蠅よ
ある時
その聲でしみじみ
螽斯《こほろぎ》、螽斯《こほろぎ》
わたしは讀んでもらひたいんだ
おまえ達もねむれないのか
わたしは
わたしは
あの好きな※[#「田+比」、第3水準1−86−44]尼母經《びにもきやう》がよ
ある時
まよなか
尿《せうべん》に立つておもつたこと
まあ、いつみても
星の綺麗な
子どもらに
一掴みほしいの
ふるさと
淙々として
天《あま》の川がながれてゐる
すつかり秋だ
とほく
とほく
豆粒のやうなふるさとだのう
いつとしもなく
いつとしもなく
めつきりと
うれしいこともなくなり
かなしいこともなくなつた
それにしても野菊よ
眞實に生きようとすることは
かうも寂しいものだらう
ある時
沼の眞菰の
冬枯れである
むぐつちよ[#「むぐつちよ」に傍点]に
ものをたづねよう
ほい
どこいつたな
りんご
兩手をどんなに
大きく大きく
ひろげても
かかへきれないこの氣持
林檎が一つ
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