「それで」
「それで、これから廣《ひろ》い世界《せかい》をめぐつて、もつともつと樣々《さま/″\》のことを見《み》たり聞《き》いたりしたいのです」
「それもよからう。けれど汝《そち》は卑《いや》しくも魚族《ぎよぞく》の王《わう》の、此《こ》の父《ちゝ》が世《よ》をさつたらばその後《あと》を嗣《つ》ぐべき尊嚴《たうと》い身分《みぶん》じや。决《けつ》して輕々《かろ/″\》しいことをしてはならない。よいか」
「はい」
「それが解《わか》つたら、すべては汝《そち》の自由《じいう》に委《まか》せる」
 生《うま》れてはじめての鯛《たひ》の子《こ》の旅《たび》! 從者《じうしや》もつれず唯《ただ》、獨《ひと》りはじめの七|日《か》十|日《か》は何《なに》かと物珍《ものめづ》らしくおもしろかつたが、段々《だん/″\》と日《ひ》を追《を》つて澤山《たくさん》のくるしいことや悲《かな》しいことが、到《いた》るところに待伏《まちぶせ》し、とり圍《かこ》み、且《か》つ攻寄《せめよ》せてくるのでした。
「自分《じぶん》は鯛王《たひわう》の子《こ》だ。失敬《しつけい》なことをするな」
 すると鮫《さめ》が
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