と、水《みづ》から上《あが》り、それでも汗《あせ》をだらだら流《なが》しながら
「どうです、象《ぞう》さん。暑《あつ》いぢやありませんか」と聲《こゑ》をかけました。
 象《ぞう》が
「えつ、何《なん》ですつて、わしはこれでも寒《さむ》いぐらゐなんだ、熊《くま》さん。いまぢあ、すこし慣《な》れやしたがね、此處《こゝ》へはじめて南洋《なんやう》から來《き》たときあ、まだ殘暑《ざんしよ》の頃《ころ》だつたがそれでも、毎日々々《まいにち/\/\》、ぶるぶる震《ふる》えてゐましただよ」
「へええ」
 季節《とき》の推移《うつりかわり》は、やがて冬《ふゆ》となり、雪《ゆき》さえちらちら降《ふ》りはじめました。
 ある朝《あさ》、こんどは象《ぞう》が
「熊《くま》さん、どうです、今日《けふ》あたりは。雪《ゆき》の唄《うた》でもうたつておくれ。わしあ、氷《こほり》の塊《かたまり》にでもならなけりやいいがと心配《しんぱい》でなんねえだ」
「折角《せつかく》、お大事《だいじ》になせえよ。俺《おい》らは、これでやつと蘇生《いきかへ》つた譯《わけ》さ。まるで火炮《ひあぶ》りにでもなつてゐるやうだつたんでね」

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