「もう知《し》らない。笑《わら》われるから、はやくお出《い》で」
「あああ、あんなものが來《き》た、黒《くれ》え煙《けむ》をふきだして……」
「よ、そらまた」
 母馬《おやうま》は煩《うるさ》さにがつかりして歸路《きろ》につきました。町《まち》はづれまでくると、仔馬《こうま》は急《きふ》に歩《ある》きだしました。はやく家《いへ》へかへつてお乳《ちゝ》をねだらうとおもつて。
「早《はや》くさ、かあちやん。かあちやん、つてば。ぐずぐず道草《みちくさ》ばかり食《た》べてゐて」
けれど憐《あは》れな母馬《おやうま》はもう酷《ひど》く疲《つか》れてゐるのでした。
 月《つき》がでました。
 ほろゑひきげんの百姓男《ひやくせうをとこ》、今《いま》はすつかり善人《ぜんにん》になつて、叱言《こごと》を一つ言《い》ひません。
「あれ、あれ、お家《うち》の灯《あかり》がみへる。もうすぐだよ。母《かあ》ちやん」


 木と木

 老木《らうぼく》
「こんなに年老《としよ》るまで、自分《じぶん》は此《こ》の梢《こづゑ》で、どんなにお前のために雨《あめ》や風《かぜ》をふせぎ、それと戰《たゝか》つたか知《し》れな
前へ 次へ
全68ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山村 暮鳥 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング