びその運命《うんめい》や生活《せいくわつ》に關《くわん》する諸問題《しよもんだい》を眞摯《まじめ》にとり扱《あつか》つてみたからであります。
これらは大方《おほかた》、而《しか》も今年《ことし》六ツになる女《をんな》の子《こ》のわたしたちの玲子《れいこ》――千|草《ぐさ》は、まだやつと第《だい》一のお誕生《たんじやう》がきたばかりで、何《なんに》も解《わか》りません――に、宵《よひ》の口《くち》の寐床《ねどこ》のなかなどで、わたしが聽《き》かせたものなのです。親《おや》としてまた友《とも》としての善良《ぜんりやう》な心《こゝろ》をもつて。
爾《なんぢ》、海《うみ》にゆきて鉤《はり》を垂《た》れよ。
はじめに釣《つ》りたる魚《うを》をとりて
その口《くち》をひらかば
金貨《きんくわ》一つを獲《う》べし。
Math,.XVIII,27.
目次
海《うみ》の話《はなし》
まだ生《い》きてゐる鱸《すゞき》
莢《さや》の中《なか》の豆《まめ》
鳩《はと》はこたへた
口喧嘩《くちげんくわ》
機織虫《はたをりむし》
鸚鵡《あふむ》
土鼠《もぐら》の死《し》
茶店《ちやみせ》のばあさん
烏《からす》を嘲《あざ》ける唄《うた》
石芋《いしいも》
おやこ
木《き》と木《き》
家鴨《あひる》の子《こ》
雜魚《ざこ》の祈《いの》り
森《もり》の老木《らうぼく》
鴉《からす》と田螺《たにし》
仲善《なかよ》し
動物園《どうぶつゑん》
頬白鳥《ほうじろ》
瓜畑《うりばたけ》のこと
蟹《かに》
蛙《かへる》
風《かぜ》
馬《うま》
蚊《か》
蚤《のみ》
蝉《せみ》は言《い》ふ
耳《みゝ》を切《き》つた兎《うさぎ》
運《はこ》ばれる豚《ぶた》
虻《あぶ》の一|生《しやう》
泥棒《どろぼう》
星《ほし》の國《くに》
鯛《たひ》の子《こ》
どうしてのんべえ[#「のんべえ」に傍点]は其《その》酒《さけ》を止《や》めたか
ささげの秘曲《ひきよく》
海の話
或《あ》る農村《のうそん》にびんぼうなお百姓《ひやくせう》がありました。びんぼうでしたが深切《しんせつ》で仲《なか》の善《よ》い、家族《かぞく》でした。そこの鴨居《かもゐ》にことしも燕《つばめ》が巣《す》をつくつてそして四五|羽《は》の雛《ひな》をそだててゐました。
その日《ひ》は朝《あさ》から雨《あめ》がふつてゐました。
巣《す》の中《なか》で、胸毛《むなげ》にふかく頸《くび》をうづめた母燕《おやつばめ》が眠《ねむ》るでもなく目《め》をつぶつてじつとしてゐると雛《ひな》の一つがたづねました。
「母《かあ》ちやん、何《なに》してるの。え、どうしたの」
と、しんぱいして。
「どうもしやしません。母《かあ》ちやんはね。いま考《かんが》え事《ごと》をしてゐたの」
すると、他《ほか》の雛《ひな》が
「かんがえごとつて何《なあに》」
「それはね……さあ、何《なん》と言《ゆ》つたらいいでせう。あんた達《たち》がはやく大《おほ》きくなると、此《こ》の國《くに》にさむいさむい風《かぜ》が吹《ふ》いたり、雪《ゆき》がふつたりしないうちに遠《とほ》い遠《とほ》い故郷《こきやう》のお家《うち》へかえるのよ。[#「かえるのよ。」は底本では「かえるのよ」と誤記]そして遠《とほ》い遠《とほ》いその故郷《こきやう》のお家《うち》へかえるには、それはそれは長《なが》い旅《たび》をしなければならないの。それがね、森《もり》や林《はやし》のあるところならよいが、疲《つか》れても翼《はね》をやすめることもできず、お腹《なか》が空《す》いても何《なに》一つ食《た》べるものもない、ひろいひろい、それは大《おほ》きな、毎日《まいにち》毎晩《まいばん》、夜《よる》も晝《ひる》も翅《か》けつづけで七|日《か》も十|日《か》もかからなければ越《こ》せない大《おほ》きな海《うみ》の上《うへ》をゆくのよ」
「まあ」と、それを聽《き》いて雛《ひな》達《たち》はおどろきました。
「それだからね、翼《はね》の弱《よわ》いものや體《からだ》の壯健《たつしや》でないものは、みんな途中《とちう》で、かわいさうに海《うみ》に落《お》ちて死《し》んでしまふのよ」
氣速《きばや》なのが
「たすけたらいい」と横鎗《よこやり》をいれました。
「ところがね、それが出來《でき》ないの。なぜつて、誰《だれ》も彼《かれ》も自分《じぶん》獨《ひと》りがやつとなのよ。みんな一生懸命《いつしやうけんめい》ですもの。ひとを助《たす》けやうとすれば自分《じぶん》もともども死《し》んでしまはねばならない。それでは何《なん》にもならないでせう。ほんとに其處《そこ》では助《たす》けることも助《たす》けられることもできない。まつたく薄情《はくじやう》のやうだが自分々々《じぶん/″\》で
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