と熊《くま》とは、折《をり》ふし、こんな悲《かな》しい話《はなし》をしてはおたがひの身《み》の不幸《ふしあはせ》を嘆《なげ》きました。
 他《ほか》の動物《どうぶつ》も、みんな同《おな》じやうに泣《な》いてばかりゐました。實《げ》に、動物園《どうぶつゑん》は動物《どうぶつ》の監獄《かんごく》でありました。
 唯《たゞ》、狡猾《ずる》い猿《さる》だけは、こうして毎日《まいにち》何《なん》の仕事《しごと》もなく、ごろごろと惰《なま》けてゐても、それでお腹《なか》も空《す》かさないでゆかれるので、暢氣《のんき》な顏《かほ》をして、人間《にんげん》の子どもらの玩弄品《おもちや》になつて、いつもきやツきやツと騷《さわ》いでゐました。


 頬白鳥

 ものぐさ百姓《ひゃくせう》がある朝《あさ》、めづらしく早起《はやお》きして、畑《はたけ》で種蒔《たねま》きをしてゐました。それを頬白鳥《ほゝじろ》がみつけて
「おぢさん、今日《こんにち》は」といひました。
 百姓《ひゃくせう》はねむそうな眼《め》を上《あ》げてみました。
「おお、誰《だれ》かとおもつたらお前《めえ》かえ。お前《めえ》さんもはやいね」
「え、おぢさん、これが早《はや》いんですつて。わたしはもう百《ひゃく》ぺんも歌《うた》ひましたよ。」[#底本では【」】が欠落]
 すこし憤《むつ》とした百姓《ひゃくせう》
「それがどうしたと云《ゆ》ふんだ」
「何《なん》でもありませんよ。たゞね、私《わたし》はおさきへ失禮《しつれい》して、これからお茶《ちや》でも嚥《の》まうとしてるんです」


 瓜畑のこと

「しつ! そら來《き》た」
 いままで、ごろごろとのんきにころがつて罪《つみ》のない世間話《せけんばなし》をしてゐた瓜《うり》が、一|齊《せい》にぴたりとその話《はなし》をやめて、息《いき》を殺《ころ》しました。みんな、そして眠《ねむ》つた眞擬《ふり》をしてゐました。
 お媼《ばあ》さんは、今日《けふ》もうれしさうに畑《はたけ》を見廻《みまは》して甘味《うま》さうに熟《じゆく》した大《おほ》きい奴《やつ》を一つ、庖丁《ほうてう》でちよん切《ぎ》り、さて、さも大事《だいじ》さうにそれを抱《かゝ》えてかえつて行《ゆ》きました。すると、また話《はなし》がひそひそと遠近《をちこち》ではじまりました。
 彼方《あちら》で
「なかなか暑《あつ》くなつて來《き》たね」
 こちらで
「ええ。そろそろとお互《たがひ》の生命《いのち》もさきが短《みじか》くなるばかりさ」
「何《なに》つ! けふも誰《だれ》か殺《や》られたつて」
 どこかで、鼻唄《はなうた》をうたつてゐる者《もの》があります。そうかと思《おも》ふと「誰《だれ》なの、そこでしくしく泣《な》いてゐるのは」
「あんまりくよくよするもんでねえだ」
「ふむ。べら棒《ぼう》め」
「南無阿彌陀佛《なむあみだぶつ》。南無阿彌陀佛《なむあみだぶつ》」


 蟹

 子蟹《こがに》の這《は》つてゐるのをみてゐた親蟹《おやがに》は苦《にが》い顏《かほ》をして言《い》ひました。
「それはまあ、何《なん》てあるき方《かた》なんだい。みつともない」
「どんなにあるくの」
「眞直《まつすぐ》にさ」
 從順《すなほ》な子蟹《こがに》はおしへられたやうに試《こゝろ》みました。けれどどうしても駄目《だめ》でした。で
「あるいてみせておくれよ」
「よし、よし。かうあるくもんだ」
 親蟹《おやがに》は歩《ある》きだしました。すると、こんどは子蟹《こがに》が腹《はら》をかかえて噴出《ふきだ》しました。
「それじや矢張《やつぱ》り、横《よこ》だあ」


 蛙

 お池《いけ》のきれいな藻《も》の中《なか》へ、女蛙《をんなかへる》が子《こ》をうみました。男蛙《をとこかへる》がそれをみて、俺《おれ》のかかあ[#「かかあ」に傍点]は水晶《すいしやう》の玉《たま》をうんだと躍《おど》り上《あが》つて喜《よろこ》びました。
 それがだんだんかわつて尾《を》が出《で》てきました。おたまじやくしになつたのです。男蛙《をとこかへる》はそれをみると氣狂《きちが》ひのやうになつて怒《おこ》りだしました。鯰《なまづ》の子《こ》をうんだとおもつたのです。
 遂々《とう/\》、變《かわ》りにかわつて、足《あし》ができ、しつぽが切《き》れて、小《ちひ》さいけれど立派《りつぱ》な蛙《かへる》になりました。男蛙《をとこかへる》はしみじみとその子《こ》を眺《なが》めて、なあんだ、どんなに偉《えら》い奴《やつ》がうまれるかと思《おも》つたら、やつぱり普通《あたりまへ》の蛙《かへる》かと、ぶつぶつ愚痴《ぐち》をこぼしました。
(「おとぎの世界」募集[#「募集」は底本では「募募」と誤記]童謠より)


 風

「なんてけち[
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