朝露《あさつゆ》が一めんにをりてゐました。ささげ畑《ばたけ》では、ささげが繊《ほそ》い細《ほそ》いあるかないかの銀線《ぎんせん》の、否《いな》、むづかしくいふなら、永遠《えいゑん》を刹那《せつな》に生《い》きてもききたいやうな音《ね》のでる樂器《がくき》に、その聲《こゑ》をあはせて、頻《しきり》に小唄《こうた》をうたつてゐました。
 けさも貧《まづ》しい病詩人《びやうしじん》がほれぼれとそれをきいてゐました。他《ほか》のものの跫音《あしをと》がすると、ぴつたり止《や》むので、誰《だれ》もそれを聽《き》いたものはありません。
 そのうた――
どこにおちても俺等《わしら》は生《は》へる
はなもさかせる
みもむすぶ
そしてまあ
何《なん》てきれいな世界《せかい》だろ

[#明らかな誤字・脱字、判読不能などの箇所の修正は、「山村暮鳥全集 第三巻」筑摩書房 1989(平成元)年9月30日初版発行 を参考にした。]



底本:「ちるちる・みちる 山村暮鳥童話集」名著復刻 日本児童文学館、ほるぷ出版
   1974(昭和49)年5月初版発行
底本の親本:「ちるちる・みちる 山村暮鳥童話集」落陽堂
   1920(大正9)年8月22日初版発行
入力:橋本山吹
校正:トム猫
1999年11月11日公開
青空文庫作成ファイル:
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