》の中《なか》で、胸毛《むなげ》にふかく頸《くび》をうづめた母燕《おやつばめ》が眠《ねむ》るでもなく目《め》をつぶつてじつとしてゐると雛《ひな》の一つがたづねました。
「母《かあ》ちやん、何《なに》してるの。え、どうしたの」
と、しんぱいして。
「どうもしやしません。母《かあ》ちやんはね。いま考《かんが》え事《ごと》をしてゐたの」
すると、他《ほか》の雛《ひな》が
「かんがえごとつて何《なあに》」
「それはね……さあ、何《なん》と言《ゆ》つたらいいでせう。あんた達《たち》がはやく大《おほ》きくなると、此《こ》の國《くに》にさむいさむい風《かぜ》が吹《ふ》いたり、雪《ゆき》がふつたりしないうちに遠《とほ》い遠《とほ》い故郷《こきやう》のお家《うち》へかえるのよ。[#「かえるのよ。」は底本では「かえるのよ」と誤記]そして遠《とほ》い遠《とほ》いその故郷《こきやう》のお家《うち》へかえるには、それはそれは長《なが》い旅《たび》をしなければならないの。それがね、森《もり》や林《はやし》のあるところならよいが、疲《つか》れても翼《はね》をやすめることもできず、お腹《なか》が空《す》いても何《なに》一つ食《た》べるものもない、ひろいひろい、それは大《おほ》きな、毎日《まいにち》毎晩《まいばん》、夜《よる》も晝《ひる》も翅《か》けつづけで七|日《か》も十|日《か》もかからなければ越《こ》せない大《おほ》きな海《うみ》の上《うへ》をゆくのよ」
「まあ」と、それを聽《き》いて雛《ひな》達《たち》はおどろきました。
「それだからね、翼《はね》の弱《よわ》いものや體《からだ》の壯健《たつしや》でないものは、みんな途中《とちう》で、かわいさうに海《うみ》に落《お》ちて死《し》んでしまふのよ」
氣速《きばや》なのが
「たすけたらいい」と横鎗《よこやり》をいれました。
「ところがね、それが出來《でき》ないの。なぜつて、誰《だれ》も彼《かれ》も自分《じぶん》獨《ひと》りがやつとなのよ。みんな一生懸命《いつしやうけんめい》ですもの。ひとを助《たす》けやうとすれば自分《じぶん》もともども死《し》んでしまはねばならない。それでは何《なん》にもならないでせう。ほんとに其處《そこ》では助《たす》けることも助《たす》けられることもできない。まつたく薄情《はくじやう》のやうだが自分々々《じぶん/″\》で
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