》あまりのおばアさんとは、反目《はんもく》嫉視《しっし》氷炭《ひょうたん》相容《あいい》れない。何ということ無しにうつらうつらと面白く無い日を送って、そして名の知れない重い枕に就《つ》いた。おばアさんの言うには、これは皆|嫁女《よめじょ》のなさしむるところだと怨《うら》んで死んだ。
 このおばアさんが死んでから後《のち》、どういうものかこの嫁も何と無く気がうつらうつらと重い枕に就《つ》く。そして臨終の期が近づいた。その瞬間である。上野の鐘がボーン……と鳴った。その鳴ると同時、おばアさんからは怨《うら》み抜かれて、そして今息を引き懸《か》けている嫁の寝ている天井の一方に当《あた》って、鼠ともつかず鼬《いたち》ともつかぬ物《もの》の化《け》の足音が響いた。そしてその足音は鐘の鳴った方面から始まったとまで、この話の観察は行届《ゆきとど》いている。そして鐘の音が一つボーン……と鳴ると、その怪しの足音は一方へ動く。また一つ鳴るとまた動く。そして嫁の寝ている胸の真上と覚《おぼ》しき処《ところ》まで、その足音が来たかと思う時、その死に瀕《ひん》した病人が跳《はね》ッ返《か》えるように苦悶《くもん》し
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