。もとより親戚|故旧《こきゅう》の無い身だから多分区役所の御厄介になった事だろう。彼はこの談話《はなし》を聞いて、初めてそれに異《ちが》いないと悟った、その老婆の怨霊がまだこの家に残っていて、無関係の彼の眼にも見えたと思った、それで最早《もう》こんな家にはおられないからと早速《さっそく》また転居をしようと思ったが、彼の職務上もあるし、一つは後々《のちのち》の人の為《た》めにもと思ったので、近所の人達を集めて僧侶を聘《へい》し、この老婆のため、その家の庭で、供養をしてやった、何しろこういう風に、人の思いというものは恐ろしいものと、自分も兼《かね》て人から聞いていたが、面《ま》の当り実見《じっけん》したのは初めてだと流石《さすが》のこの男が私に話したのであった。



底本:「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」ちくま文庫、筑摩書房
   2007(平成19)年7月10日第1刷発行
底本の親本:「怪談会」柏舎書楼
   1909(明治42)年発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2008年9月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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