死んだ、己《おら》の娘が来たんだがの、葬式《とむらい》の時、忘れて千ヶ寺詣《せんがじまい》りのなりで、やったものだから困るといって、今この通り、白衣《きもの》と納経《のうきょう》を置いて行って、お寺さんへ納めてくんろといいながら、浜の方さ、行ってしまっただよ」と談《はなし》された時には、子供|達《だち》は皆《みんな》震上《ふるえあが》って一同顔色を変えた、その晩はいとど物凄い晩なのに、今幽霊が来たというので、さあ子供|等《だち》は帰れないが、ここへ泊るわけにもゆかないので、皆一緒に、ぶるぶる震えながら、かたまって漸《ようや》くの思いをして帰ったとの事だが、こればかりは、老爺《おやじ》が窓のところへ起《たつ》て行って、受取《うけと》った白衣《びゃくえ》と納経《のうきょう》とを、眼《ま》の当《あた》り見たのだから確実の談《だん》だといって、私にはなしたのである。
底本:「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」ちくま文庫、筑摩書房
2007(平成19)年7月10日第1刷発行
底本の親本:「怪談会」柏舎書楼
1909(明治42)年発行
入力:門田裕志
校正:noriko sa
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