速《さっそく》まだうら若き身を白衣《びゃくえ》姿に変えて、納経《のうきょう》を懐《ふところ》にして、或《ある》年の秋、一人ふいと己《おのれ》の故郷を後《あと》にして、遂に千ヶ寺詣《せんがじもうで》の旅に上《のぼ》ったのであった、すると、それから余程《よほど》月日も経ったが、不幸にも娘は旅の途中、病《やまい》を得て家に帰って来たが、間もなく、とうとう此度《こんど》は、あの世の旅の人となってしまった、父や兄の悲歎は申すまでもなかったが、やがて、質素な葬式も済《すま》してそれも終った。
すると、或《ある》冬の事、この老爺《おやじ》というのが、元来|談《はなし》上手なので、近所の子供|達《だち》が夜になると必ず皆寄って来て、老爺《おやじ》に談《はなし》をせがむのが例であったが、この夜も六七人の子供が皆《みんな》大きな炉《ろ》の周囲《まわり》に黙って座りながら、鉄鍋の下の赤く燃えている榾火《ほだび》を弄《いじ》りながら談《はな》している老爺《おやじ》の真黒《まっくろ》な顔を見ながら、片唾《かたず》を呑んで聴いているのであった、私に談《はな》した男もその一人であったそうだ。戸外《そと》は雪がちら
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