いつ》我が望《のぞみ》が成就《じょうじゅ》して国へ芽出度《めでたく》帰れるかなどと、つまらなく悲観に陥って、月を仰《あお》ぎながら、片門前《かたもんぜん》の通《とおり》を通って、漸《ようや》く将監橋《しょうげんばし》の袂《たもと》まで来た。その頃|其処《そこ》にあった蕎麦屋の暖簾《のれん》越しに、時計を見ると、まだ十時五分前なので、此処《ここ》から三分もかかれば家《うち》へ帰れるのだから、確《たしか》に平時《いつ》もの通り十時前には帰れると安心して、橋を渡って行った。その時にはまだ私も気が附いていたのだが、さて将監橋を渡り切る頃には、如何《どう》したものか、それから先《さ》きは、未《いま》だに考えてみても解らない。何しろ十時から十一時、十二時という、二時間の間というものは、何処《どこ》を何《なに》して歩いたものか、それともじっと一《ひ》と所《ところ》に立止《たちどま》っていたものか、道にしたら僅《わず》かに三四|町《ちょう》のところだが、そこを徘徊《はいかい》していたものらしい。やがて師匠の家《うち》に曲る横町も通過《とおりす》ぎて、花園橋の上に茫然《ぼうぜん》と立っていたのだ。すると
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