られていたこともあった。だからつまりその妄念の霊が姿を見せるのだろうと、凡《すべ》てこのだろうの上に成立する話であるが、まアざッとそういうような話で、その刻限は恰《あだ》かもその向うに見ゆる学士会院の屋上に聳《そび》えている時計台の時計が二時を報ずる所謂《いわゆる》丑満刻《うしみつこく》で、こういうことは東西その軌《き》を一《いつ》にするのかも知れぬが、私《わし》も六十六番の二階で、よくその時計の鳴音《なるおと》を聴いたのが今も耳の底に残っている。東洋趣味のボー……ンと鳴り渡るというような鐘の声とは違って、また格別な、あのカン……と響く疳《かん》の音色《ねいろ》を聴くと、慄然《ぞっ》と身慄《みぶるい》せずにいられなかった。つまり押しくるめていえば学士会院の二時の鐘と血だらけの顔、そしてその裏面《りめん》に潜む革命の呻吟《うめき》、これがこの話の大体である。
底本:「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」ちくま文庫、筑摩書房
2007(平成19)年7月10日第1刷発行
底本の親本:「新小説 明治四十四年十二月号」
1911(明治44)年12月
初出:「新小説 明治四十四
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