不吉の音と学士会院の鐘
岩村透

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)渋谷《しぶや》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今|遺憾《いかん》だ。
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 昼も見えたそうだね。渋谷《しぶや》の美術村は、昼は空虚《からっぽ》だが、夜になるとこうやってみんな暖炉《ストーブ》物語を始めているようなわけだ。其処《そこ》へ目星を打って来たとは振《ふる》っているね。考えてみれば暢気《のんき》な話さ。怪談の目星を打たれる我々も我々であるが、部署を定めて東奔西走も得難いね。生憎《あいにく》持合《もちあわ》せが無いとだけでは美術村の体面に関《かか》わる。一つ始めよう。
 しかし前から下調《したしらべ》をしておくような暇《いとま》が無かったのだから、何事もその意《つもり》で聞いて貰わなければならない。あるには有る。例えば羅馬《ローマ》という国だ。この国は今言うような趣味の材料には、最も豊富な国と言っていい、都鄙《とひ》おしなべて、何か古城趾《こじょうし》があるとすれば殊《こと》に妙であるが、其処《そこ》には何等《なにら》かの意味に於いて、何等《なにら》かの怪《かい
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