を聖女は胸にさす、彼女がその花を明るい空気の中に投げるとき、みどりの世界が現はれる。
北と東の灰色の風を吹きつける沖のさびしい島で生きることは容易ではない、一本の流れ木も一つかみの泥炭も、異つた種類の小魚の入り交つた獲物も、どれもみんな悲しいほど尊い必需品である。その海岸にギルブリード(ブリードの僕)と鳴く海鳥の声をきく時、島びとは生き返へるやうな歓びを感じる。海鳥はするどい高い声でギルブリード ギルブリードとくりかへして鳴く、聖女がそのとき浜を歩いて行かれる。それは荒い海岸や孤島の話である。もつと豊かな農村の家庭でも、女たちはこの「二月の美しい女」黄いろい髪の親切な聖女にお祈りをする。聖女はをさないものの揺籠の上に身を屈める。赤んぼが微笑する時、母親は聖女の顔をまのあたり見るのだといはれる。
今、私は寒さの中にちぢこまつて、もう幾日したら春が立つかと指折りかぞへて二月の初めを待ちながら、遠い西の国にむかし生れた二月のむすめブリードを思ひ出した。二月二日の祝日《いわひび》だといふ燈火節のことも考へた。
底本:「燈火節」月曜社
2004(平成16)年11月30日第1刷発行
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