聖女ブリジツト」といふ文では「二月の美しい女」「温い火の聖女ブリード」「浜辺の聖女ブリード」と三つの名を挙げてゐる。
二月の美しい女ブリードは、キリストの養ひの母ブリジツトや、家庭をまもる聖女ブリジツトといふやうなキリスト教のにほひを持つ一人の女性とは違つて、それよりずつと古い時代の、ゲエルかそれよりも以前の民族に信仰されてゐた火と詩の女神ブリードの姿も一しよにされてゐるだらうと言つてゐる。ドルイドの司祭は彼女を片手には黄いろい小さな火焔を持ち、片手には火の赤い花をもつ「朝のむすめ」として礼拝してゐた。その火がなければ、人間の子たちも洞穴に住む野のけものたちと同じやうなものであつたのだらう。今も春が来るたびに「二月の美しい女」は思ひ出される。人の心に、昔の古い偉大な姿は消えても、をさなごキリストを一夜自分の胸に抱いて子守歌をうたつた養ひの母ブリジツトとして、人間の家庭の揺籠を夜も昼も守る女神として、また九十日の冬眠から天地自然が目をさまして春が生れる歓びとともに、二月の初めに生れた彼女を愛するのであらう。
大西洋の灰色の波と寒いさむい雲霧に覆はれてゐたアイルランドの海岸や、海中の島
前へ
次へ
全5ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
片山 広子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング