つた。青い空としだれ桜と、その花を見る人たちもみんな古風な年寄やおかみさんが多く、非常に地味な清らかな感じがした。「さんざしぐれ」とかいふ歌の調子は知らないが、そんなやうなさびがあると思つた。
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丘のうへはしだり桜の花咲きみち東北のみやこ日も清らなる
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そこを通りすぎて丘の中ほどにある政岡の寺といふのを見た。大きな辛夷の木が一ぽん立つてゐて、無数の白い花が青ぞらを覆ふやうに咲いてゐた。寺の中からはお線香のにほひがしてお経の声がもれて来る。ここに来てえらい政治家政岡の話を考へ、辛夷の花の下の古い寺を見ると、芝居に出る忠義の見本みたいなつまらない人形ではなく、彼女の本物はもつと美しくお色けもあり、時々は好ましい笑顔も見せたことと思はれる。すばらしい腕をもつてゐた人にちがひない。
北の方の傾斜面から仙台の市《まち》を見下した。山々が昨日か一昨日降つたばかりの白雪を冠つて、向うからもこの市を見下してゐる。
強い風が二三日ほど続いて花も散りはじめたといふ噂をきいたので、塩釜へは行かず仙台の市中を歩いてみた。
広瀬川に添つた谷あひからいくつも
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