東北の家
片山廣子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)東北《とうほく》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)左大臣|源融《みなもとのとほる》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
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東北《とうほく》に子の住む家を見にくれば白き仔猫が鈴《すず》振りゐたり
[#ここで字下げ終わり]

 東京に生れて東京にそだち東京で縁づいたFが、はじめて仙台に住むことになつたのは昭和十六年の夏であつた。Fの夫が商工省から仙台の鉱山局に転じて行つたのである。そとに出ることをひどく面倒がる私も、私としては気がるによばれて仙台の家にいく度か泊りに行つた。十六年と十七年の二度の秋、それから十八年の春と、そのたびに十日位づつは泊つてゐたから、つまり三十日間なじみの仙台である。わかい時からまるで旅行の味を知らずに、鎌倉と軽井沢に子供たちの夏休みの七月八月を過すだけで、ある時何かの拍子に東海道は興津ぐらゐまで行つたといふ珍らしい引込み思案の私がはるばる仙台まで出かけて行つたのは、先きが自分の娘の家
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