談に来て、お庭のまん中にむやみに穴を掘られては困りますから、向うの植込の樹のしげみを「山」と見たてて「山水」の型に池を掘りませうと言つてくれた。植木屋の親方は一日中指揮者となつて程よく土を運ばせ丘の姿がだんだん出来上がつてゆくのを「専門家だなあ」と私は感心して見てゐたが、ほんとうに、それは「山水」と見えた。一丈の深さの池は第一日で三分の二ぐらゐ掘り下げられた。
 初めの日、三時のお茶時間すこし前だつた、都の事務官なにがしがこのたびの事でお礼の御挨拶に伺ひましたと、区役所の人をお供にして見えた。椽側に出て挨拶すると、事務官は名刺を出して公式のお辞儀をした。風采のすぐれた人だつた。「みんなが非常に感謝してをります。あとあとは決して御迷惑をかけない積りでをりますが、御用の時はどうぞ御遠慮なく区役所の方におつしやつて、また私も、伺ふことにいたします」と言つてもう一度お辞儀をした。
「どうぞお上がり下すつて、お茶を召上がつて……」と私は言つたけれど、事務官は庭でスピーチをしなければならないのだつた。植木屋の設計した「山水」の丘の上に立つて彼は奉仕隊の婦人たちにスピーチをした。ねぎらつて、はげまし
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