つけないでゐれば、一億一心といふマトーにはづれるのだから、町会から少しぐらゐ意地わるの事をされても仕方がなかつた、もうすぐそこに一つ別の問題が起りかけてゐた。それはだんだん家々が焼けて住宅がなくなつて来れば、焼け出された人たちをどこの空間にでも収容することになつてゐて、一畳半の場所に一人づつ、つまり十畳には七人位、八畳には六人、四畳半には三人入れるきまりださうで、私の家もその時にお役に立たせられるかもしれないと、一週間も前から聞かされてゐた。かういふ時に庭の方を役立てて、家のなかには触れずに置いて貰ふ方がいいだらうとも言はれてゐた。火事で焼けて家も家財も一瞬に失くしてしまつた人たちの苦しさはよく分つてゐるつもりでも、今まで若い女中とたつた二人で静かすぎるやうに暮してゐた家に急に二十人も三十人もの人が来て、あわただしい共同の生活に変ることは、私にとつては怖いほどの一大事と思はれた。国も人もほろびつつあるその国難もまだほんとうには認識できないでゐる時の私だから、何事も一寸のばしにすることにして、それでは、庭を使つていただいて、家の方の徴用はゆるして頂けるのでせうねと念を押して、貯水池はつい
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