いつぱい見せてゐた。
隔日ぐらゐに来ておひるを食べて庭で遊んで夕がた帰つてゆく。雨のふる朝来たとき、頸輪がひどく汚れてゐたから、それをはづしてやると、また新しい紅絹の頸輪で次の日に現はれた。トラは大事にされてゐるな、真あたらしい紅絹だから、わかい令嬢のゐる家だらうと思つてみた。カステラやイモが好きなので、をんな猫のやうな錯覚を感じて「トラ子」とよび慣れてしまつた。けふもまた何かねだるのだらう。
過去に私はトラ子によく似た仔猫を知つてゐた。やはり黒の勝つた虎毛で尾がまるく長く、金いろの丸い眼をもつてゐた。猫を愛する夫人が八匹ほど育ててゐて、その中の一ばん可愛いやつだつた。夫人はその猫を「ニトラ・マルメ」と名づけた。故人となられた新渡戸博士の家にゐたスペイン猫の子供だつたから、姓は「ニトラ」眼がまるいから「マルメ」といふ名であつた。夫人は教養たかいアメリカ婦人で、猫たちにも詩的なのや、しやれた名をつけた。庭に迷ひこんで来たキジ猫を「キシロ」といひ、赤猫は「アカ」で、白猫は「マシロ」、赤猫の子どもを「コアカ」といふやうに。そのほかに鼈甲のやうな黒と黄いろのまだらの猫で「ベツコ」といふのも
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