「子猫ノハナシ」
片山廣子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)和気乃《わけの》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)田辺|和気《わけ》子
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明治の末頃、田辺|和気《わけ》子といふ有名なお茶の先生があつた。その田辺先生に私は二年ぐらゐお茶を教へていただいた。先生はお花も教へてをられ、金曜日には先生のあまり広くないお宅は花屋から持ちこむお花で、お座敷も椽側もいつぱいになつた。お流儀花の池の坊であつたが、ほんとうはお茶のついでに教へられたので、まづお嫁入り前のお稽古花のやうであつた。
先生のお家は麹町の屋敷町の中に置き忘れられたやうな古いちひさい家で、八畳二間と玄関の三畳、それに二畳の板の間がお座敷の西側にあつて水屋に使はれてゐた。お弟子の私たちはお玄関にゆかず、しをり戸からお庭にはいり、お庭の飛石を渡つてすぐ椽側に上がるのだつた。三十坪ぐらゐの狭いお庭は草がとても風流に繁つて、たけの長い草は抜かれるらしく、曲りくねつた小径には苔やつる草の中にちらちら飛石が見え、その先きの方に三四本の短かい木や灌木が植込みになつて、その先きの青い世界が
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