唯《た》だ少しく狭い平地は直様《すぐさま》霊廟を戴く更に高い第三の乃《すなわ》ち最後の区劃に接しているのである。此処《ここ》にはそれを廻《めぐ》る玉垣の内側が他のものとは違って、悉《ことごと》く廻廊の体《てい》をなし、霊廟の方から見下《みおろ》すとその間に釣燈籠を下げた漆塗の柱の数《かず》がいかにも粛々《しゅくしゅく》として整列している。霊廟そのものもまた平地と等しくその床《ゆか》に二段の高低がつけてあるので、もしこれを第三の門際《もんぎわ》よりして望んだならば、内殿の深さは周囲の装飾と薄暗い光線のために測り知るべくもない。
この建築全体の法式はつまり人間の有する敬虔崇拝の感情を出来得べき限りの最高度まで興奮させようと企てたものでしかも立派にその目的に成功した大《だい》なる美術的傑作品である。
紅雨は生涯忘れない美的感激の極度を経験したと信ずる巴里《パリー》の有名なる建築物に対した時の心持に思い較《くら》べて、芝の霊廟はそれに優るとも決して劣らぬ感激を与えてくれた事を感謝した。そればかりでなく、彼はまた曲線的なるゴチック式の建築が能《よ》くかの民族の性質を伝《つたえ》るように、この方形
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