びょうぶ》
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まがりなりには折りかがめども
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われ京伝《きょうでん》が描ける『狂歌五十人一首』の中《うち》に掲げられしこの一首を見しより、始めて狂歌捨てがたしと思へり。
されど我は人に向つて狂歌を吟ぜよ浮世絵を描け三味線を聴けと主張するものに非らず。われは唯西洋の文芸美術にあらざるもなほ時としてわが情懐《じょうかい》を託するに足るものあるべきを思ひ、故国の文芸中よりわが現在の詩情を動《うごか》し得るものを発見せんと勉《つと》むるのみ。文学者の事業は強《し》ひて文壇一般の風潮と一致する事を要せず。元《もと》これ営利の商業に非らざればなり。一代の流行西洋を迎ふるの時に当り、文学美術もまた師範を西洋に則《のっと》れば世人に喜ばるる事火を見るより明かなり。然れども余はさほどに自由を欲せざるになほ革命を称《とな》へ、さほどに幽玄の空想なきに頻《しきり》に泰西の音楽を説き、さほどに知識の要求を感ぜざるに漫《みだ》りに西洋哲学の新論を主張し、あるひはまたさほどに生命の活力なきに徒《いたずら》に未来派の美術を迎ふるが如き軽挙を恥づ。いはんや無用なる新用
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