百花園
永井荷風

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)来《きた》って

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今|猶《なお》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「匸<編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第4水準2−3−48]

 [#…]:返り点
 (例)緑葉成[#レ]陰子満[#レ]枝
−−

 友の来《きた》って誘うものあれば、わたくしは今|猶《なお》向島の百花園に遊ぶことを辞さない。是《これ》恰《あたか》も一老夫のたまたま夕刊新聞を手にするや、倦《う》まずして講談筆記の赤穂義士伝の如きものを読むに似ているとでも謂《い》うべきであろう。老人は眼鏡の力を借りて紙上の講談筆記を読む。その講談は老人の猶衰えなかった頃徒歩して昼寄席《ひるよせ》に通い、其耳に親しく聴いたものに較べたなら、呆れるばかり拙劣な若い芸人の口述したものである。然し老人は倦まずによく之を読む。
 わたくしが菊塢の庭を訪うのも亦《また》斯《か》くの如くである。老人が
次へ
全8ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
永井 荷風 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング