放水路
永井荷風

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)隅田川《すみだがわ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)放水路|開鑿《かいさく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「言+闌」、第4水準2−88−83]
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 隅田川《すみだがわ》の両岸は、千住《せんじゅ》から永代《えいたい》の橋畔《きょうはん》に至るまで、今はいずこも散策の興を催すには適しなくなった。やむことをえず、わたくしはこれに代るところを荒川《あらかわ》放水路の堤《つつみ》に求めて、折々杖を曳くのである。
 荒川放水路は明治四十三年の八月、都下に未曾有の水害があったため、初めて計画せられたものであろう。しかしその工事がいつ頃起され、またいつ頃終ったか、わたくしはこれを詳《つまびらか》にしない。
 大正三年秋の彼岸《ひがん》に、わたくしは久しく廃《よ》していた六阿弥陀詣《ろくあみだもうで》を試みたことがあった。わたくしは千住の大橋をわたり、西北に連る長堤を行くこと二里
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