に番人のいる様子も見えない。私たちは安心してずんずんと赤煉瓦の本家《おもや》について迂廻しながらその裏手へ出てみると、僅か上下二筋《うえしたふたすじ》の鉄条綱《てつじょうこう》が引張ってあるばかりで、広々した閑地は正面に鬱々として老樹の生茂った辺《あたり》から一帯に丘陵をなし、その麓《ふもと》には大きな池があって、男や子供が大勢釣竿を持ってわいわい騒いでいる意外な景気に興味百倍して、久米君は手早く夏羽織《なつばおり》の裾《すそ》と袂《たもと》をからげるや否や身軽く鉄条綱の間をくぐって向《むこう》へ出てしまった。私は生憎《あいにく》その日は学校の図書館から借出した重い書物の包を抱えていた上に、片手には例の蝙蝠傘《こうもりがさ》を持っていた。そればかりでない。私の穿《は》いていた藍縞仙台平《あいじませんだいひら》の夏袴《なつばかま》は死んだ父親の形見でいかほど胸高《むなだか》に締《し》めてもとかくずるずると尻下《しりさが》りに引摺《ひきず》って来る。久米君は見兼《みか》ねて鉄条綱の向から重い書物の包と蝙蝠傘とを受取ってくれたので、私は日和下駄の鼻緒《はなお》を踏〆《ふみし》め、紬《つむぎ》
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