いる。小石川|柳町《やなぎちょう》には一方に本郷より下《おり》る坂あり、一方には小石川より下る坂があって、互に対時《たいじ》している。こういう処は地勢が切迫して坂と坂との差向いが急激に接近していれば、景色はいよいよ面白く、市中に偶然|温泉場《おんせんば》の街が出来たのかと思わせるような処さえある。
 市《いち》ヶ|谷《や》谷町《たにまち》から仲之町《なかのちょう》へ上《のぼ》る間道に古びた石段の坂がある。念仏坂《ねんぶつざか》という。麻布飯倉《あざぶいいくら》のほとりにも同じような石段の坂が立っている。雁木坂《がんぎざか》と呼ぶ。これらの石級《せききゅう》磴道《とうどう》はどうかすると私には長崎の町を想い起すよすがともなり得るので、日和下駄の歩みも危《あやう》くコツコツと角の磨滅した石段を踏むごとに、どうか東京市の土木工事が通行の便利な普通の坂に地ならししてしまわないようにと私は心|窃《ひそか》に念じているのである。
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     第十一 夕陽 附富士眺望

 東都の西郊|目黒《めぐろ》に夕日《ゆうひ》ヶ|岡《おか》というがあり、大久保《おおくぼ》に西向天神《にしむきてん
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