屋根、玉垣なぞをば、或時は人家の屋根の上、或時は路地の突当りなぞ思いも掛けぬ物の間からいろいろに変化さして見せる。私はまたこういう静な坂の中途に小じんまりした貸家を見付ると用もないのに必ず立止っては仔細《しさい》らしく貼札《はりふだ》を読む。何故《なぜ》というに神社の境内に近く佗住居《わびずまい》して読書に倦《う》み苦作につかれた折|窃《そっ》と着のみ着のまま羽織《はおり》も引掛《ひっか》けず我が家《や》の庭のように静な裏手から人なき境内に歩入《あゆみい》って、鳩の飛ぶのを眺めたり額堂《がくどう》の絵馬《えま》を見たりしたならば、何思うともなく唯茫然として、容易《たやす》くこの堪えがたき時間を消費する事が出来はせまいかと考えるからである。
東京の坂の中《うち》にはまた坂と坂とが谷をなす窪地《くぼち》を間にして向合《むかいあわせ》に突立っている処がある。前章市内の閑地《あきち》を記したる条《じょう》に述べた鮫《さめ》ヶ|橋《はし》の如き、即ちその前後には寺町《てらまち》と須賀町《すがちょう》の坂が向合いになっている。また小石川|茗荷谷《みょうがだに》にも両方の高地《こうち》が坂になって
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