越え江戸川の流を隔てて小石川|牛天神《うしてんじん》の森を眺めさせる。丁度この見晴しと相対するものは則《すなわ》ち小石川|伝通院《でんづういん》前の安藤坂《あんどうざか》で、それと並行する金剛寺坂《こんごうじざか》荒木坂《あらきざか》服部坂《はっとりざか》大日坂《だいにちざか》などは皆|斉《ひと》しく小石川より牛込|赤城番町辺《あかぎばんちょうへん》を見渡すによい。しかしてこれらの坂の眺望にして最も絵画的なるは紺色なす秋の夕靄《ゆうもや》の中《うち》より人家の灯《ひ》のちらつく頃、または高台の樹木の一斉に新緑に粧《よそ》わるる初夏《しょか》晴天の日である。もしそれ明月|皎々《こうこう》たる夜、牛込神楽坂《うしごめかぐらざか》浄瑠璃坂《じょうるりざか》左内坂《さないざか》また逢坂《おうさか》なぞのほとりに佇《たたず》んで御濠《おほり》の土手のつづく限り老松の婆娑《ばさ》たる影静なる水に映ずるさまを眺めなば、誰しも東京中にかくの如き絶景あるかと驚かざるを得まい。
坂はかくの如く眺望によりて一段の趣を添うといえども、さりとて全く眺望なきものも強《あなが》ち捨て去るには及ばない。心あってこれ
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