乗るべき車の来る向側の乗車場《のりば》へと歩いて行つた。
 次の日は午後から小雨が降り出したのみならず、友田は毎日同じやうな行動を取るのもどうかと考へ、会社を出ると一人ぶら/\銀座を歩き其辺のバーで一杯飲んで空しく貸間に帰つたが、眠られない夜《よ》の更《ふ》けるにつれて、これまでの経過を思返して見ると、手を握つて口説《くど》いたからは、乗りかけた船も同様、是が非にも行くところまで行かなければならない。それにはどう云ふ方法を取りどういふ場所を択ぶがよからうと、心ひそかに思案をしてゐる中、日は過ぎて明日《あす》は又もや日曜日といふ其の前の日になつた。
 友田は会社の廊下で、女の出て来るのを待ち受け、
「あしたは浅草で会ふ日です。僕は浅草橋の駅外《えきそと》で待つてゐます。時間は午後……一時ですか、二時ですか。」
「二時。」と言つたなり、女は事務の書類を手にして昇降機《エレベータ》の方へ小走りに行つてしまつた。

 その日友田は会社がひけてから、夜《よる》になるのを待つて、一人浅草公園に出かけて、明日《あした》の午後映画を見てから後《あと》の帰り道、いよ/\彼《か》の女《をんな》をつれ込む場
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