虫干
永井荷風

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)毎年《まいねん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)や[#「や」に「ママ」の注記]

 [#…]:返り点
 (例)明[#(ニシ)][#二]

 [#(…)]:訓点送り仮名
 (例)方今女学之行[#(ルヽ)]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いよ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 毎年《まいねん》一度の虫干《むしぼし》の日ほど、なつかしいものはない。
 家中《うちぢゆう》で一番広い客座敷の縁先には、亡《なくな》つた人達の小袖《こそで》や、年寄つた母上の若い時分の長襦袢などが、幾枚となくつり下げられ、其のかげになつて薄暗く妙に涼しい座敷の畳の上には歩く隙間もないほどに、古い蔵書や書画帖などが並べられる。
 色のさめた古い衣裳の仕立方《したてかた》と、紋の大きさ、縞柄、染模様などは、鋭い樟脳の匂ひと共に、自分に取つては年毎にいよ/\なつかしく、過ぎ去つた時代の風俗と流行とを
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