深川の散歩
永井荷風

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)中洲《なかず》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)深川|清住町《きよずみちょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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 中洲《なかず》の河岸《かし》にわたくしの旧友が病院を開いていたことは、既にその頃の『中央公論』に連載した雑筆中にこれを記述した。病院はその後《のち》箱崎川にかかっている土洲橋《どしゅうばし》のほとりに引移ったが、中洲を去ること遠くはないので、わたくしは今もって折々診察を受けに行った帰道には、いつものように清洲橋《きよすばし》をわたって深川《ふかがわ》の町々を歩み、或時は日の暮れかかるのに驚き、いそいで電車に乗ることもある。多年坂ばかりの山の手に家《いえ》する身には、時たま浅草川の流を見ると、何ということなく川を渡って見たくなるのである。雨の降りそうな日には川筋の眺めのかすみわたる面白さに、散策の興はかえって盛《さかん》になる。
 清洲橋という鉄橋が中洲から深川|清住町《きよずみちょう》の岸へとかけられたのは、
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