理《り》なし。沈むの誤《あやまり》ならずやと言はれて言句《ごんく》につまりしとの話あり。写生を念頭に置けばかかる誤はおのづとなくなるなり。
一 小説かかんと思はば何がさて置き一日も早く仏蘭西《フランス》語を学びたまへ。但し手ほどきは日本人についてなす事|禁物《きんもつ》なり。暁星《ぎょうせい》学校の夜学にでも行きその国人についてなすべし。何事も手ほどきが肝腎なり。踊三味線などもくだらなき師匠につきて手ほどきしたるものはいやな癖つきその後はいかなる名人の弟子となるとも一度つきたる癖は一生直らぬものなりとぞ。日本人のとかく語学に不得手《ふえて》なるやうにいはるるは中学校にて日本の教師に英語の手ほどきされるがためなるべし。小学中学の恐るべきはこれだけにても知らるるなり。
一 小説家たらんとするもの辞典と首引《くびぴき》にて差支なければ一日も早くアンドレエ・ジイドの小説よむやうにしたまへかし。戦争以来多く新刊の洋書を手にせざれば近頃はいかなる新進作家の現れ出でしやおのれよくは知らねど、まづ新しき小説の模範としてはジイド、レニエーあたりの著作に、新しき戯曲の手本としてはポオル・クローデルあたりの
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