十日の菊
永井荷風
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)山茶花《さざんか》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)近年|徒《いたずら》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+二点しんにょうの適」、第4水準2−13−57]
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一
庭の山茶花《さざんか》も散りかけた頃である。震災後家を挙げて阪地に去られた小山内《おさない》君がぷらとん社の主人を伴い、倶《とも》に上京してわたしの家を訪《おとな》われた。両君の来意は近年|徒《いたずら》に拙《せつ》を養うにのみ力《つと》めているわたしを激励して、小説に筆を執らしめんとするにあったらしい。
わたしは古机のひきだしに久しく二、三の草稿を蔵していた。しかしいずれも凡作見るに堪《た》えざる事を知って、稿《こう》半《なかば》にして筆を投じた反古《ほご》に過ぎない。この反古を取出して今更|漉返《すきかえ》しの草稿をつくるはわたしの甚《はなはだ》忍びない所である。さりとて旧友
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