会に出品すれば正札つきにて法外の利益を得る事かたし。芝日陰町の村幸は書林組合に入らず。
一、同じ古本屋にても唐本和本漢籍雑書詩歌俳諧各其の向々あり。唐本漢籍詩集の類は神田猿楽町の村口、日本橋通壱丁目の嵩山堂、麹町三丁目の磯部、下谷池の端の琳琅閣、本郷の文求堂なぞ専門なり。村口と文求堂は新しき店にて近頃大分大きく致したり。磯部と琳琅閣は小石川伝通院前の青山堂と並びて人の知りたる老舗なり。(青山堂は今はなし。)
一、俳書浄瑠璃本黄表紙洒落本なぞに明きは下谷御徒町の吉田なるべし。主人咄しずきにて客をそらさず、鑑識なか/\高し。東五軒町の文林堂も人の知る処こゝには扇面短冊の面白きもの多く蓄へたり。この店の品他に比して価いつも高からず勉強と云ふべし。主人能筆の聞え高く蜀山人の筆致殆ど其の真偽を弁ぜざる程なりといふ。
一、文林堂の筋向に竹田といふ店あり主人気軽にて親切なれば一寸見当らぬ品物なぞ注文するには誠によし。
一、古書と云へば何に限らず品物一渡り揃へ持ちたるは、何と云つても浅草広小路の浅倉なり。次は神田小川町の松山堂なるべし。浅倉の主人は見た処より有徳の大商人らしく物云ひ年輩共に信用するに足
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
永井 荷風 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング