ッと国土の風景とが何等の関係もなく余りに別々である事を不審に思ふのである。

     六

 汽船は海上四日の後《のち》横浜に着いた。
 自分は海岸通りのホテルに茶菓《さくわ》を味《あぢは》つた後《のち》、汽車で東京に帰つた。人家の屋根の上には梅毒の広告が突立《つつた》つてゐる大きな都会。電車の停留する四辻では噛み付くやうな声で新聞の売子が、「紳士富豪の秘密を暴《あば》きました………。」と叫んでゐる恐しい都会。長い竹竿を振り廻して子供が往来の通行を危険にしてゐる乱雑な都会。市民と市吏と警察吏とが豹変常なき新聞記者を中間にして相互の欠点を狙ひ合つてゐる気味悪い都会。その片隅に嗚呼《あゝ》自分の家《いへ》がある。
[#地から1字上げ]明治四十四年九月



底本:「日本の名随筆 別巻51 異国」作品社
   1995(平成7)年5月25日第1刷発行
底本の親本:「荷風全集 第一三巻」岩波書店
   1963(昭和38)年2月発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年12月
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