が直りました。』とにや/\笑ふもあり、又は、
『ぢやア最《も》う一杯、何しろ二年振こんなお正月をした事がないんですから。』と愚痴らしく申訳するもある。
何れも、西洋人相手の晩餐会《デンナー》にスープの音さする気兼もないと見えて、閉切つた広い食堂内には、此の多人数がニチヤ/\噛む餅の音、汁を畷る音、さては、ごまめ、かづのこの響、焼海苔の舌打なぞ、恐しく鳴り渡るにつれて、『どうだ、君|一杯《ひとつ》。』の叫声、手も達《とゞ》かぬテーブルの、彼方《かなた》此方《こなた》を酒杯《さかづき》の取り遣り。雑談、蛙《かわず》の声の如く湧返つて居たが、其の時突然。
『金田は又来ないな。あゝハイカラになつちや駄目だ。』とテーブルの片隅から喧嘩の相手でも欲《ほ》しさうな、酔つた声が聞えた。
『金田か、妙な男さね、日本料理の宴会だと云へば顔を出した事がない。日本酒と米の飯ほど嫌ひなものは無いんだツて云ふから……。』
『米の飯が嫌ひ……某《それ》ア全く不思議だ。矢張《やツぱ》り諸君の……銀行に居られる人か?』と誰れかゞ質問した。
『さうです。』と答へたのは主人の頭取で、
『もう六七年から米国《べいこく》に居
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