さよ。」
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 東北の積雪の感じは出ていると思います。

 秋田地方の地方色は、金子洋文氏の『鴎』とか『赤い湖』とかいうような短篇の中によく出て来ますが、私は『牝鶏』という戯曲の背景の中に、如実にそれを見ることが出来ると思います。
 金子洋文『牝鶏』
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「春の黄昏近く、
東北にある湖畔の百姓家。
 春の黄昏近く、開けつぱなした広い土間から美しい八郎潟の景色がみられる。
 謙吉が土間に轉つてゐる木|臼《うす》に腰かけて、湖の方に眼をやりながら、ぼんやり考へこんでゐる。近くにお銀が立つてゐる。
 間――。
 遠く湖面を帆かけた小舟がのんびり通りすぎる。
 蛙の声。」
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 これは『牝鶏』の冒頭の説明でありまして、これだけでは地方色も何もありませんが、舞台の背景となりまして私達の眼の前に展《ひら》けますと、私達はそこから判然《はっきり》とその地方色を感じさせられます。
 金子洋文『鴎』
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「鯡《にしん》船が河に十数艘|入港《はい》つた、鯡がピラミツド型に波止場の各所に積みあげられた。
 鴎が海を越えて何処
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