き合つた茅葺勝の家並の数が、唯九十何戸しか無いのである。村役場と駐在所が中央《なか》程に向合つてゐて、役場の隣が作右衛門店、萬荒物から酢醤油石油|莨《たばこ》、罎詰の酒もあれば、前掛半襟にする布帛《きれ》もある。箸で断《ちぎ》れぬ程堅い豆腐も売る。其隣の郵便局には、此村に唯一つの軒燈がついてゐるけれども、毎晩|黙火《とも》る譯ではない。」
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 この一節の中で、最も興味を引くのは、役場の隣の店の「……箸で断《ちぎ》れぬ程堅い豆腐も売る……」というところであります。このような部落の風景や、このような居酒屋は、他の地方にも無いとは言い難いのでありますが、堅い豆腐は東北の名物ともいうべき独特のものであります。

 東北の冬を描いて雪を取り入れない人は殆んどいないようです。
 久米正雄『雪の驛路』
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「雪を被つた[#「被つた」は底本では「被った」]、そして処々眞黒な屋根々々が、不揃ひに並んだS町の向うには、狭い町幅をすぐ越えて、一面の田野が処々に杜を黒ませたり、畔のやうな区畫を見せたりして、広く続いてゐた。そして其盡きるあたりに、黒い帯を曳いて、可な
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