なものや、真実なものや、純情的なものなどの、陰影を感じさせられるからであります。明朗とか軽快とか――近頃の流行のモダンとかシックとか――いうようなものは、元より求むべくもありませんが、明朗であるよりも暗鬱である方が、軽快であるよりも鈍重である方が、さらに遙かに芸術的陰影を深めているという観点からいたしましても、東北地方は、日本中のどこよりも、私の気持ちに融合するのであります。
東北地方の地方色が、文芸作品によって紹介されましたのは、極く最近のことでありまして、東北地方を目標としての最も古い文学である芭蕉《ばしょう》の『奥の細道』にいたしましても、僅かに二百四十年ばかり、徳川中期のことであります。それも、あのような紀行記ではあり、芭蕉の主観があまりに勝ち過ぎていて、地方色が出ているとは言い難いのであります。遠く『日本書紀』や『万葉集』や『古今集《こきんしゅう》』などにも、既に東北地方は紹介されてはいるのでありますが、それは記録としてであり、感想としてでありまして、本当に東北地方の地方色の紹介されましたのは、やはり、明治以降というべきであります。
併し、古い時代の伝説や説話などにも、
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