ったらどうかね。耕平も、馬を買うべって稼ぎに行って……」
 母親はそう言っているうちに、涙がじめじめと虫のように匐《は》い出して来て、言葉が継《つ》げなくなった。
「よし! 馬を買うべ! 馬のいいのを買うべ!」
 伝平は手を叩くようにして言った。
 伝平はそうして、七十円ばかりで、橡栗毛《とちくりげ》の馬を一匹買ったのだった。残りの金では、馬小屋にも手入れをした。そして、伝平は、一日のうち、馬小屋にいる時間の方が、遙かに長かった。
「おおら! おおら! おおら!」
 伝平はそう言って、馬の肩あたりを撫《な》でてやりながら、いつまでも凝《じ》っと馬の眼を視詰めているのだった。そして、伝平の眼には、いつの間にか涙がするすると湧いて来る。伝平はすると、馬の首に手をかけて、その眼を馬の顔に押し当てるのだった。
「汝《にし》等あ、馬を大切にしなくちゃなんねえぞ。兄ちゃんの身代わり金で買ったのだから、馬だって、兄ちゃんと同じことだぞ。兄ちゃんさ美味《うま》いもの喰わせるつもりで、美味そうな青い草でもあったら、取って来て喰わせたり、大切にしなくちゃなんねえぞ。」
 伝平は、そう小さな子供達に言うのだ
前へ 次へ
全17ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング