戸物の破片、縄端、木片などが散らばり、埋め、短い青草の禿げている空地。校庭から子供達がときどきそこへ転り込んで行った。
建築場の空では、カラカラカラララララと、ひっきりなくクレインが鳴っていた。混凝土をあける音は一日中、一定の時間を置いて、窓窓の硝子を震動させた。
尋常五年の教室では地理の時間が始っていた。黒板の片隅には、縮尺五千分の一の「本郡全図」が掛けられていた。地図に対する概念を固めるために、生徒の熟知している土地の地図に就いて、踏査的教授を与えているのであった。
「この地図の上で、煉瓦色に塗られてある部分は、市街から続いて来ている郡部の町で、この緑色の部分は、田舎なのです。即ち私達の村がこの緑色の部分なのであります。ところが、これは三四年前に拵えた地図で、毎年一度ずつ訂正を加えているのですが、現在《いま》では又この地図とは大部違って来ているのであります。」
そこで教師は、ぽんと、細い竹鞭で地図の上を打った。動きかけていた生徒の視線が又一斉にそこへ集って行った。
「何処がどんな風に変ったか? 今日は一つ、皆さんにその変ったところを見つけて貰らおうと思うのだが、さあ誰かわかる
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