……」
 群山は、他の二人の地主に代って返事を与えた。
「馬鹿馬鹿しいっ! 百円からの地代払って、地代分だけも儲けられしめえ! 群山さん。そんな馬鹿なこと、あの禿頭にでも教えられたのかね?」
 甚吉は太い腕を、胸の上に腕組みながら言った。群山の話の口調が、彼の地所に家を建てた男にそっくりであったから。
「併しね。此処へ、別に働かねえでも段当り百八十円からの金が湧いて来るってえのに、そこを畠にしていたんじゃ、全く勿体ねえですからなあよ。」
「勿体ねえ? ハハハ……」
 重次郎が笑い出した。地主の野本は、笑い出した小作人の青年を、怪訝《けげん》そうに視詰めた。
「勿体ねえって云うんなら、住宅にすんのこそ勿体ねえ話だ。畠にして置けえあ、それこそいろんな食う物が湧いて来るのにさ。住宅にして了ったら、せえぜえ、塵埃《ごみ》が関の山だべ。」
「併し、黙って腕組みしていて、百八十円ずつの地代が這入って来んのですかんな。」
 野本は斯う反駁した。
「幾ら地代が這入ったって、地代がその土地から湧くもんじゃあるめえがな。他所で働いて取って来る金じゃねえか?」
「何れにしろ、私等の懐中さ這入る分にゃ同じことだから、地主としちゃ、やっぱり地代のいい方さ貸すことになるね。全く、借手の誰彼を問題にしちゃいねえんだ。問題は、唯、地代なんだから……」
 群山はそう言って頭から小作人達を抑えつけた。土地の使用目的から、地代で及ばない小作人達は、それ以上言葉ではもう何も出来なかった。
「お気の毒ですが、まあ、此処の地所はそう云うわけですから、あんたがたも一つ、百姓なんかやめて了って、商売でも始めたらどんなものでしょうね?」
 河上が微笑みかけながら言った。この穏やかな地主の言葉に対しては、誰もさからわなかった。
「それさね。」
「そう云うことになれば、何んかで、出来るだけのことはいたしますから。店を開くと云うような場合には……」
 斯う河上は更に付け加えた。
「資本金《もとで》でもあれば店も結構だが、われわれ、どうして商売など始められんべ? 工場さでも通うより仕方がなかんべ。」
「そこですよ。私の言っているのは……勿論、大したことは出来かねますがね。まあ、及ぶだけのことは……」
「併し、皆んな商売をやり出したら、一体、誰が買うんですかね?」
 甚吉は煙草に火をつけながら、皮肉らしく言つた。
「ですから
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